レバレッジ:他人のお金で履くハイヒール

ハイヒールを履けば、一瞬にして身長が7センチ、10センチと高くなります。

レバレッジ:他人のお金で履くハイヒール

ハイヒールを履けば、一瞬にして身長が7センチ、10センチと高くなります。歩き方はエレガントに変わり、周囲の視線も変わります。しかし、そのヒールが自分の背丈そのものを伸ばしているわけではありません。あくまで自分を持ち上げている道具にすぎないのです。平らな地面を歩く分には問題ありません。しかし一歩踏み外したり、階段でヒールを引っかけたりすれば、ヒールが高いほど転倒のダメージも大きくなります。高く見えるほど、リスクもそれに比例して膨らんでいく。それがハイヒールの持つ二面性です。

不動産の世界における「レバレッジ」とは、まさにこのハイヒールです。他人のお金(借入)を使って建物を買えば、自己資金だけで買った場合よりもリターンははるかに高く見えます。しかし、そのヒールから転げ落ちれば、素足で立っていたときよりもずっと大きなダメージを負うことになります。

「背が高く見える」仕組みを数字で見る

100万ドルの価値がある建物があるとします。そのNOI(ネット・オペレーティング・インカム、前章で扱った「手取り収入」)は年間6万ドルで、キャップレートは6%です。

投資家Aは、この建物を100万ドル全額を現金で買い取ります。Aのリターンはきっちり6%。自己資金100万ドルを投じて、年6万ドルを稼ぐという計算です。

投資家Bは、自己資金をわずか30万ドルしか出さず、残りの70万ドルを金利4%の借入で調達します。Bは銀行に年間2万8,000ドルの利息を支払います。これを6万ドルのNOIから差し引くと、Bの手元に実際に残るのは3万2,000ドルです。しかしBが投じた自己資金はわずか30万ドルなので、Bのリターンは3万2,000ドル÷30万ドル≒10.7%になります。

同じ建物、同じ家賃なのに、Aは6%、Bは10.7%を稼ぐ。これがヒールのマジックです。他人のお金にかかるコスト(4%の金利)が、建物自体のリターン(6%のキャップレート)より低いとき、その差が自己資金に対するリターンを押し上げます。業界ではこれを「ポジティブ・レバレッジ」と呼びます。ヒールが自分を持ち上げる方向に働いているという意味です。

ヒールが折れるとき

では、同じ建物がトラブルに見舞われた場合を想像してみましょう。大口テナントが退去し、空室率が上がり、NOIは6万ドルから3万ドルへと半減します。

現金で100万ドル全額を支払ったAは、リターンが6%から3%に落ちます。痛手ではありますが、それでもまだプラスです。足を引きずってはいるものの、歩くことはできています。

Bの物語は違います。3万ドルのNOIから2万8,000ドルの利息を差し引くと、残るのはわずか2,000ドル。30万ドルを投じたBのリターンは0.7%まで暴落します。ここからさらに少しでも状況が悪化し、利息すら払えるだけの現金が残らなくなれば、Bはローンをデフォルトし、担保として差し入れていた建物を銀行に差し押さえられることになります。Aは足を引きずりながらも歩き続けますが、Bはヒールを折って倒れてしまうのです。

これがレバレッジの本質です。レバレッジはリターンを生み出す道具ではありません。利益と損失を同時に増幅させる乗数なのです。うまくいっているときは他の誰よりも大きく稼ぎ、うまくいかないときは他の誰よりも大きく傷つく。低いヒールなら、つまずいても捻挫で済みますが、ヒールが高くなるほど、たった一度の踏み外しがもたらすダメージの規模そのものが変わってしまいます。

ハーバードのある教授が語る、二つの都市・一つのパターン

レバレッジが引き起こす崩壊は、不動産の歴史が何度も繰り返してきたパターンです。20世紀のニューヨークのスカイラインの多くを形づくった伝説的なデベロッパーは、キップス・ベイやセンチュリー・シティといった大きな成功を収めながら、最終的にはそのほとんどを失うことになりました。彼が正しかったのは、都心の未来に対する先見の明でした。それは的確でした。彼が間違えたのは、現実がまだ追いついていない段階で、その先見性をあまりに大きな借金で押し進めてしまったことです。数十年後、ロンドンのカナリー・ワーフを開発したカナダの不動産一族も、ほぼ同一の物語を生きることになりました。時代も、都市も、大陸も違う。しかしパターンは同じでした。先見性は正しかった。それを殺したのはレバレッジだったのです。

このパターンは個々のデベロッパーだけに限りません。2020〜2021年、世界的に金利が過去最低水準まで下がると、投資家たちは安価な借入を使って不動産保有を膨らませる買い漁りに走りました。低金利は、事実上、誰もにハイヒールを一足ずつ配っていたようなものです。その後、金利が急激に上昇すると、そのヒール群は一斉にぐらつき始めました。2025年から2026年にかけて、世界全体で約7,000件の資産にまたがる、推定1兆8,000億ドル規模の商業不動産ローンが借り換えまたは返済期限を迎えつつあります[1]。低金利時代に買い込んだヒールが、今まさに高金利の世界で試されているのです。こうした局面では、リファイナンスできる機関投資家と、それができない個人投資家や小規模オーナーとの間の差が、常に一気に広がってきました。

同じ時期、アジアでも似た物語が展開しました。借金を使って積極的に成長してきたある大手中国デベロッパーは、2021〜2022年に巨額の損失を計上し、2024年には最終的に清算手続きに入りました[2]。タイミングも引き金も西側の金利サイクルとは異なりましたが、その根底にある構造はまったく同じでした。高いヒールで走り、つまずく余地の一切ない瞬間につまずいたのです。

レバレッジは常に悪役というわけではない

ここで誤解してはいけないことがあります。レバレッジそのものは悪者ではありません。むしろレバレッジがあるからこそ、大多数の個人や企業がこの不動産というゲームに参加できているのです。100万ドルの建物を買うのに100万ドルを手元に持っている必要があるとしたら、このゲームに参加できる人の数はほんの一握りにまで縮小してしまうでしょう。自己資金わずか30万ドルで、100万ドルの建物のオーナーになれる。これこそレバレッジが本来果たすべき役割です。ヒールがなければ、多くの人はそもそもその目線の高さにすら届かないのです。

本当の問いは、ヒールをどこまでの高さに設定するかです。不動産の資産形成にありがちなパラドックスのひとつは、純資産は大きく見えても、その大部分が建物という流動性の低い資産に固定されてしまうことです。「100万ドルの物件は、100万ドルの普通預金ではない」のです。レバレッジは同時に誘惑でもあります。同じ自己資金で二つ、三つのプロジェクトを同時に走らせられるからです。そしてその誘惑に慣れれば慣れるほど、銀行が個人保証だけでなく他の資産まで担保として求めてくる方向にじりじりと押し流されていきます。そして、まさに最悪のタイミング、市場が崩れるその瞬間に、担保に差し入れたすべての資産が一斉に呼び戻されることになります。それが過剰なレバレッジがもたらす最悪のシナリオです。

だからこそ、百戦錬磨の投資家が問うのは「レバレッジを使うか使わないか」ではなく、「この高さのヒールを自分は履きこなせるか」です。家賃がわずかにぐらついただけで利息の支払いが滞るほど高いヒールは、優雅さではなく曲芸です。逆に、あまりに低いヒール(つまりほとんど借入をしないこと)は安全ではありますが、他人のお金が稼いでくれたはずの追加のリターンを手放すことを意味します。DSCR(ローンの元利返済カバー率を測る指標で、後の章で扱います)は、まさに「自分が実際に履きこなせるヒールの高さはどれくらいか」を計算するための道具です。

何センチのヒールを履くべきか

ヒールの高さの設定に、決まった正解はありません。しかし原則は存在します。テナントの入れ替わりが少ない安定した資産、たとえば長期リースが入った物流センターのようなものは、キャッシュフローが予測しやすく、比較的高めのヒールを履く余地があります。一方、家賃が変動しやすく空室リスクの高い資産(価格が日替わりで変わりうるホテルなど)は、低めのヒールのほうが安全です。実務上でも、資産の種類ごとに慣行としてのレバレッジ比率には明確な違いがあり、資産の値動きが荒くなるほど、市場は慣習的により多くの自己資本を求める傾向にあります[3]。

そして何より、最もよくある過ちは、金利が低かった時代に設定したヒールの高さが、金利が上がった後もそのまま通用すると思い込んでしまうことです。ヒールを買った日に歩いていた舗装路と、同じ靴のまま何年も後に歩いている舗装路は、まったく別の道である場合が少なくありません。

ゲームの法則 — レバレッジは、他人のお金を使ってリターンを膨らませる一足のハイヒールです。ヒールが自分を持ち上げている間はエレガントですが、一歩踏み外せば、素足のときよりもはるかに大きなダメージを負います。何センチのヒールを履くかは好みの問題ではなく、この先の道が平坦か険しいかを、まず自分に問うてから決めるべき判断なのです。


Sources

  • The mechanics of positive leverage and the equity-return amplification calculation: adapted from William J. Poorvu with Jeffrey L. Cruikshank, The Real Estate Game (Free Press, 1999)
  • The recurring “the vision was right, leverage killed it” pattern in the Zeckendorf and Reichmann family stories: adapted from William J. Poorvu with Jeffrey L. Cruikshank, The Real Estate Game (Free Press, 1999)
  • The structural mechanism by which undercapitalization and overleverage doom development projects: adapted from William J. Poorvu with Jeffrey L. Cruikshank, The Real Estate Game (Free Press, 1999)
  • [1] Combined 2025–2026 commercial real estate loan maturities (roughly $1.8 trillion across roughly 7,000 assets): industry and contemporaneous public reporting (Mortgage Bankers Association / Trepp; Reuters; Bloomberg)
  • [2] A major Chinese developer’s overleverage-driven crisis and 2024 liquidation: industry and contemporaneous public reporting (Mortgage Bankers Association / Trepp; Reuters; Bloomberg)
  • [3] Customary leverage ratios by asset type (hotels highest at around 80%, apartments and industrial relatively lower): adapted from William J. Poorvu with Jeffrey L. Cruikshank, The Real Estate Game (Free Press, 1999)